三田の味覚博士

「味覚で日本人の健康を変えることができます」。眼鏡の奧を光らせながら味覚博士は力強く語る。今日は16時から三田で味博士ことAISSYの鈴木代表とのMTGだ。AISSYは慶応発のベンチャーなので三田の慶応のすぐ側にあり味覚センサーを活用したビジネスを展開している。D4DRも2009年からワインのECで味覚を可視化して販売を支援するような実証実験を共同で行ったりしている。

味覚博士との議論は盛り上がる。日本人は「うまみ+塩み」が好きだ。イタリア人は「うまみ+酸味」が好きだと。確かにトマトに熱を加えるとうまみが出てくるが,酸味は残る。トマトソースはまさにうまみ+酸味,しかし日本人は醤油や塩とうまみを混ぜることが多い。おのずと塩分摂取が増える。そのため体のためには塩分に一番気をつけないといけない。甘みも問題だが,米国人などと比べるとお米を噛むことで感じるほのかな甘さに鍛えられた日本人は米国人の激甘には耐えられない。よって国別で比べると塩分に一番気をつけるべきというなるほどな話だ。味覚が可視化できることで塩分をおさえても潮味を感じる調理法を見つけることができる。日本人の健康を助けることを味覚博士は本気で考えているのだ。

「WHOの推奨は一日5g,ところが日本人はラーメン一杯で12g摂取しています」

味博士のこの一言で脳みその奧深くで何かがざわめいた。
そうこうしているうちにMTGも終わり,慶応の正門の側でスマホの時間を見る。

「16:50」

また何かが自分の中でざわめく。「三田の慶応正門前」「ラーメン」「16:50」このキーワードでわかる人はわかるだろう。二郎三田本店は17時からだ。まさに神様が今日するべきことを決めてくれたようなシチュエーション。そうあの2014年の11月の初挑戦から半年。ついに大への挑戦の時が来たのだ。

三田16:50ラーメン二郎開店前の情景

ラーメン二郎三田本店 - 藤元健太郎のフロントライン・ ドット・ジェーピー

その日は突然やってきた。三田でのMTGが終わり、すっかり夜が早足になった街をとぼとぼと会社に戻ろうと慶応の前にさしかかった時ひとつの思いがこみ上げてきた。そう、食いしん坊として未だに足を踏み入れたことの無い未踏の領域「すきやばし次郎」じゃなくて「ラーメン二郎」だ。時間はちょうど17時前。早速三田本店へと足を向けた。夜の開店前だがすでに5人ぐらいの行例ができている。さて問題は頼み方だ。噂ではいろいろ聞いているがいざ店にくるとなんともいえない緊張感に体中が包まれる。ガラガラという音とともにシャッターがあがった。ひとりづつ食券の販売機で買うと奥から順番にカウンターにきれいに収まっていく。どんな注文をするのか大を頼むやつはいるのか、初心者であることをさとれないようにポーカーフェイスで券売機の動きをチェックする。しかしみんな黄色ばかりだ。。本店ではこれが掟なのか?誰もほかのメニューを頼まない!仕方が無いので私も黄色の小のぶた入りを頼もうとお金を入れた。しかし500円玉が何度入れても戻ってくる。まずい。まさかお札を入れるのが常識なのか?店内の全員の注目を浴びているような気まずい雰囲気だ。すると「お金はいんないですか?」店員さんがやさしく語りかけてくれた。なんだ優しいじゃないか。二郎は黙々と食べるところと聞いてたので店員さんがフレンドリーにしてくるとは予想外だった。両替をお願いし、黄色の札を取り出すとそれを握りしめ順番に席についた。さあこれであとは噂のコールを待つだけだ。すると私の後ろの人が離れた席に座った。いいのか!そんな序列を乱して!どうも大丈夫なようだ、思っていた以上にジロリアン達にはイスラムのような厳しい戒律があるわけではなさそうだ。しかしラーメンが出てくる順番とコールされる順番がバラバラだ。どういうことだ?麺の固さ?その方程式を解明できないうちにラブストーリーは突然のようにコールがきた。落ち着け。落ち着くんだ。よし。
「にんにく、野菜マシで」
できた。大丈夫だ。初心者とは思われない落ち着いた回答ができたはずだ。最大の難関を突破した。
直後にすぐにラーメンは目の前にきた。コールとほぼ同時のすごい早さだ。早速スープを一口飲む。懐かしい味がする。そうだ大学時代にアルバイトしていたフライト(今や上場企業)という会社でゲームソフト開発をしていた目黒のマンションのすぐそばにあった中華料理屋ではまって食べていた野菜たっぷりの焼きそばの味だ。何より麺が平たくてそっくりだ!当時は野菜だけを野菜炒めとしてライスと食べて、その後麺を食べていたが、この野菜と麺の感じがとても似ている。しかしチャーシューは正直多すぎる。大に挑むためには次回は豚なしがよさそうだ。店内はいつのまにか満席だ。女性のひとり客もいる。大を頼んだ人がいたのでさりげなくチェックしたが、なんとかいけそうだ。すでに次回の大への挑戦を考えているあたり私もジロリアンになれそうだ。さすがにスープは濃すぎて全部は飲み干せなかったが私の二郎初挑戦は無事に終わった。二郎の1800kカロリーを吸収した私の体にも三田の夜風はやや寒い。秋もすっかりマシマシだ。

fujimoto-news.dino.vc

17時前からすでに行列はできている。さすがにこの時間は慶応の学生らしき人々が圧倒的だ。もうすぐ始まる早慶戦のマウンドに上がるピッチャーのような緊張感が体を包み込む。この若い選手達と一緒に戦えるなら大くらいは余裕だろうという安心感も芽生える。

「ガラガラガラ」

そうこうしているうちにシャッターがあがった。すぐに店員は先頭グループに麺のサイズを聞き始めた。ふいを打たれた先頭グループに動揺が走る。どうもこの集団も慣れていないようだ。

「小で」「普通で」

答えを聞きながら「二郎の普通は小だろうに」と二回目の素人ジロリアンの癖にもうそんなことが気になっている自分がいることにあきれる。そうこうしているうちに自分が自動販売機で食券を買う番だ。前回はここでお金が入らないというアクシデントがあったが今日は冷静に何も起きず買うことができた。迷わず「ラーメン大」だ。前回は小豚ラーメンに挑戦したが,超弩級な大和の46cm砲並みにずどんと来る豚チャーシューによって大が食べきれなくリスクがとても大きくなるため,チャーシュー増量は避ける。

ラーメン大を示す青いプラスティックの札をカウンターの上に置いて見渡すとどういうことだ。回りは黄色の札ばかり,これだけの若者がいるにも関わらず48歳のおやじな自分だけが大を頼んでいるというシチュエーションをどう過ごせばよいのだろうか。二郎の大でかいひゅーひゅーとか騒いでいるのはもはや昭和世代の行動原理だと言うのだろうか。ラーメンが出てくるまでの孤独の状況の中で,この状況を正当化するための理屈を考えている時にふと先ほどの味覚博士の事を思い出した。「味覚を可視化できると食べ合わせの相性を分析できるのですよ」味覚博士は白ワインと魚,赤ワインと肉という相性を見事に可視化で分析してみせている。

【味覚センサー】なぜ赤ワインにはお肉、白ワインには魚!?

こんばんは、味博士です。 さて、今日は相性のお話です。 よくお肉には赤ワインが、魚には白ワインが相性がよいなんて言われてますよね。 でも、それってなぜなんでしょうか? 弊社の味覚センサー味覚を使って数値化してみると面白いことが分かります。 まずは赤ワインのケースです。 上図をご覧下さいませ。 赤ワインを味覚分析してみると、苦味が特徴的です。一方で、ステーキ肉は旨味と甘味が特徴的です。 これらを合わせてみると、赤ワインの苦味とステーキ肉の旨味と甘味が絶妙なバランスとなり、美味しく感じられます。 一方で、赤ワインと白身魚のカルパッチョを食した場合です。 白身魚のカルパッチョは全体的に淡白な味わいで、あさっりとした旨味と塩味が特徴です。 これらを合わせてみるとどうなるでしょうか。 赤ワインの苦味が際立ってしまい、白身魚の持つ淡白な旨味と塩味を感じにくくなってしまいます。 従って、赤ワインとステーキ肉の方がよりバランスがよく相性がいいと言えます。 次に白ワインのケースを見てみましょう。 白ワインは赤ワインに比べて、全体的に淡白な苦味と酸味と甘味が特徴です。 従って、白ワインとステーキ肉を食した場合、肉の旨味や甘味が強く、白ワインのあっさりとした味わいを感じ取りにくくなってしまいます。 一方で、白ワインを白身魚と食した場合は、全体的に淡白で絶妙なバランスの味覚がそろい、とても相性がよいと言えます。 さて、いかがでしたか。 一見俗人的に感じていることを定量化すると、新たな世界が見えてきます。 次回をお楽しみにお待ち下さいませ。 本日はここまでです。 ※追伸:このような企画をやって欲しいとか、味覚に関する謎を聞いてみたいという方は問い合わせフォームまたはコメント欄にご意見をお寄せ下さいませ。 企画化を前向きに検討させて頂きます。 味覚に関する詳細は拙著をご覧ください。 【日本人の味覚は世界一 (廣済堂新書 36) [新書]】 ■鈴木 隆一 (著) ■廣済堂新書 ■税込¥ 840

aissy.co.jp

ラーメン二郎はラーメンでは無いという仮説

食い合わせという考え方からひとつの新仮説を考えた。それはラーメン二郎はラーメンでは無いのではないかということだ。その原点は前回初回に感じた「スープの塩辛さ」だ。美味しいラーメンはスープも飲み干すということが多いと思うが二郎は塩辛すぎて残してしまった。そこで二郎のスープはスープでは無いのではという仮説が導かれる。スープと何かの相性があの美味しいさを生み出していると考えてみた。

仮説1:チャーシューのタレと付け合わせ
 ひとつの仮説はあの濃いスープはチャーシューのタレでは無いかというものだ。隣の人が豚ダブルで麺ハーフを頼んでいたこともヒントだ。つまり二郎のチャーシューが好きな人はあの豚の脂まみれのスープをタレとしてチャーシューを食べている。そして麺と野菜はステーキについているような付け合わせなのではという仮説だ。そうすると二郎のチャーシュー好きの人達を説明できるのではないだろうか。チャーシュー好きの人は脂マシにしているという相関分析などで検証してみたいところだ。

仮説2:野菜つけめん
 次の仮説はラーメン二郎はつけめんだったという仮説だ。あの濃いスープはつけめんだと思えば納得できる。そして野菜と麺のハーモニーをつけて食べているのだ。つけめん屋のように割スープがあればあのスープも飲めるはずだ。

この二つを考えているうちにコールが来た。迷わずニンニク野菜だ。そうだ私は野菜つけ麺として食べていたのだ。そう考えた時に大の量が気にならなかった。三田製麺所やTETSUなどの大や特盛りを考えると同じくらいの麺の量だ。そうつけめんだと思えば二郎のボリュームはそれほど気にならないのだ。麺と野菜を同時にスープにつけて食べると確かに美味しい。あっという間に食べ終わると今回もスープだけ残して席をたった。

自分の仮説に確信を持ちながらも,やはり取りすぎた塩分,カロリーに罪悪感を感じつつ,まだ明るい三田の街を歩く。まだ5月であることを急に思い出したようにやや涼しい風が昼間の暑さに代わり吹いている。今年の夏の暑さはやはりマシマシなのだろうか。

*REVOLVER dino network 投稿 | 編集